もう第二十二回電撃小説大賞の選考も佳境に入ってる昨今ですが、皆様いかがお過ごしでしょうか。
私は最近、初めて電子書籍というハイテクに手を出すに至りました。目当ては鳩見すた著「ひとつ海のパラスアテナ」ですよ。第二十一回電撃小説大賞の《大賞》受賞作です。

電撃文庫といえば、名タイトルを世に送り出してきた若者向け小説(電撃文庫では自レーベルの出版物を指してライトノベルという表現を使わないようなのであえてこう表現)界の巨人です。そして当作は歴史のページにその名前を刻んだ鳩見氏の処女作なのであります。これで娘に「当時の鳩見先生の処女作をリアルタイムで読んだんやで!」などとドヤ顔できます。ありがたい。

そんなわけで読書感想文を書いたので、全世界に向けて発信しようと思います。
何せ読書感想文を書くなんて、高校以来十年以上振りです。ブランクの影響が否めず途中から読書感想文ではなくなっていますが、自由派な作風なんだと思ってご容赦ください。

第21回電撃小説大賞《大賞》受賞作として

ジャンルとして海洋冒険もの(というよりサバイバルもの?)という感じだと思います。
冒険ものはジャンルとしては嫌いではないのですが、率直な感想として「流石は大賞受賞作!」感は薄かったです。電撃小説大賞に選ばれるくらいなので、読むことで自分の人生に何か一石を投じてくれるような、自分の何かをがたがた揺さぶってくれるような、明日からちょっと自分のこういうとこをこういうふうにしてみようかなとか、今まで生きてきた道を少しだけ振り返りたくなるとか、勇気づけられたとか、癒やされたとか、俗っぽい意味での萌えを感じたとか、適当に恋人を作って結婚したくなるとか、そういう何かがあるんじゃないだろうか? と思い込んだ状態で読んでみたのですが、特にそういったものはありませんでした。
まあこれは個人的に勝手に期待してただけなので、どうでもいいです。

一作品として

ただフラットに読んだ感想としても、あまり高評価ではありません。
率直に言って、良い点を挙げろと言われると困ってしまいます。
ただしこれはのです。例えばヒロインが体を張って披露するサバイバルの描写などをとって見れば、鳩見先生は知識が凄く豊富で、そして海が心から好きで、決して「書くためにこないだネットで調べた」とかいうような付け焼き刃ではないということは、海に関してドシロウトな私も強く感じたところであります。ここのところはAmazonのレビュアーさんたちが「描写が細かく、かつリアリティがある」と評している通りで、きっと鳩見先生は冗談抜きで将来性ある凄い人なんだと思います。調べて書くことは誰でもできますが、経験というのは誰にでもあるわけではないですからね。
ということで、この小説の良い点は何かと問われれば、「描写が細かいところ。」と答えるかなあ、と思います。

でも、そんなに凄い武器がありつつ、しかもその武器の威力が至るところに散りばめられているにもかかわらず、なぜか読み切った後、私の中に残ったものはあまりありませんでした。強いて言えば「生きるためとはいえ生魚をあんな風にするのは私はやだなぁ」とか、「コーンスープっぽいのおいしそうだった」とか、「おしっこ……」とか、はいくつか残ったのですが、は何も残らなかった感じです。何て言うんだろう、「生きるという人間の根源的なテーマを描いた作品」、という売り文句に対応させて言うならば、「生きるって大変なことだと思いました……」くらいの小学生並みの感想しか持てなかったといったところです。これは私の読解力が小学生レベルなだけかもしれず、また寄る年波で想像力が摩耗しているのかもしれず、まあそれならそれでも別にいいのですが、ただAmazonのレビューを見ると私と同じくあまりポジティブな意見を持っていない人も少なからずいるようで、それらを読んでみると決して根も葉もない感情的な批評のようにも思われず、それならばもし読者に原因を求めるではなく作品側に何らかの原因があると仮定するならば、それは何なのだろう? と一ヶ月間ぐらい断続的に考え続けていたのです。

新しいジャンルとして

そして私の結論なのですが、この作品は「ドラマというよりもドキュメンタリーに近い」と思うのです。
ドキュメンタリーというのは「取材対象に演出を加えることなくありのままに記録された素材映像を編集してまとめた映像作品(WikiPedia「ドキュメンタリー」より)」だそうです。私が感じたこの作品の印象はまさにこれで、アフターの世界のセイラーである少女・アキの行動をビフォアのカメラが追い、ビフォアのナレーターが地の文を綴っている、というイメージです。
それが小説として誤っているなんてことはもちろんなく、いかがなものかと言いたいわけでもなく、というだけで、私達は今までの電撃文庫の作品がドラマだったのでこの作品もドラマだと思い込んでいて、読んでみたらドラマというよりもドキュメンタリーだった、でもドキュメンタリーもドラマの一種といえなくもないかな、ま、いっかな……というような感じです。
もしかしてこの作品は「海洋サバイバルドキュメンタリー」とでも言える新ジャンルなのではないでしょうか。

ということで作品を悪く言うつもりはないのですが、いずれにしてもやっぱり特殊な作であるということは言えるし、それ故に読む人を選ぶというのも事実です。個人的に、(面白いと思ったかどうかは別として)こういう挑戦的な個性や、小細工を排除したシンプルさは興味深くて好きですが、もうちょっと読者を煽るような仕掛けがあってもよかった、それがあればさらに親しみやすく支持も集まったかもしれないなあ――と思います。それがAmazonのレビュアーさんの言ってる「惜しい」というところかな、と。

おわりに

でも最初の方に書いたように、この先生はきっとすごい人です。そのうち読んだ人全てが「この人スゲエ! この才能を受賞作がちょっと見慣れない作風だったという程度で批判してた奴は阿呆だろ!」などと言い出すような超名作が今後は世にガンガン出てくるに決まっていて、そんな名作を買い漁って夢中になっている私の娘たち(高校生)に向かって「でもこの先生の処女作はリアルタイムで読んだんやで! 賛否両論あったけど、私はこの人の才能をわかってたんやで!」などとドヤ顔をして言ってやり、娘らはそんな私にある種の尊敬の眼差しを向け、しかし隣に座る妻はでもあなたは一巻しか出せずに終わったじゃないの、などと穏やかな顔で手厳しいジョークを飛ばしつつ、皺の増えた指で文庫本のページを優しく捲る。――ああ、私は何をしているのだろう? 私はこんなに幸せになる資格など無いのに。小さな文庫本一つが書店に並んだところで、誰も幸せになんてできない。そう思っていたのに――

おわり。

Tweet about this on TwitterShare on FacebookShare on Google+Share on TumblrEmail this to someone