そして年が明け、仕事始めの日。連絡のつかない私を不審に思った会社の同僚が、私の部屋を訪ねると――そこにはフタをした緑のたぬきと、それを見つめたまま石化した私の姿が――そう、お正月さんの準備を終えることのできなかった私にはお正月さんがやって来てくれず、永久に2015年12月31日23時59分59秒から先に進めなくなってしまったのです。何が起こっているのか理解できず立ちすくむ同僚。冷たく淀んだ空気の中で、私の3分間が凍り付いたまま永遠に終わらない――。
なんて恐ろしいことにならないように早く掃除を始めればよかったわけですが、電撃小説大賞で大賞受賞を狙う私としては、研鑽を積む一環として、投稿機能が先行公開された新しい小説投稿サイト「カクヨム」に登録を行わないわけにはいかなかったのです。
特に気になったのは、トップページに以下の煽り文句があったことです。
誰でも思いのまま小説が書けます。
作者がストレスを感じることなく執筆・公開ができる投稿フォームを設計しています。
ストレスを感じることなく執筆ができる!
ストレスが地球をだめにすることは1989年に森高により詳らかにされ今に至るわけですが、そんな難敵を退ける秘策があるということなのでしょうか。
女性遍歴が全くない私ですが、小説の編集ソフトの遍歴だけはいろいろとあります。というのも、そのいずれにも「なんかしっくりこないなぁ」感があったからで、結局今は一太郎に落ち着いてはいますが、今もストレスを感じる局面が全くないのか? と言えばもちろんそんなことはないわけです。
もちろん、誰にとってもストレスのない投稿フォームなど存在しません。
それはもちろんそうなのですが、今回に関しては、踏まえておくべき点があります。というのは、「カクヨム」は、KADOKAWAとはてなによる運営なのです。
KADOKAWAと言えば、泣く子も黙る出版大手。角川書店の頃から今に至るまで「ワープロにこんな感じの機能ついてたらいいのになー」とか、「ここがこうだからこのソフト使ってるんだよ」とか、作家陣から生の声を聞いてきていることでしょう。
そしてはてなと言えば、「はてなダイアリー」「はてなブログ」などのサービスを開発運営している会社として有名です。投稿フォームに関しては日記系サービスのキモなわけで、相当なノウハウとフィードバックを蓄積してきているに違いありません。
「誰でも思いのまま、ストレスを感じないで書き続けることができる」ようになる方法と言えばもう麻薬しかないわけですが、KADOKAWAとはてなのタッグなら、麻薬の力を借りなくても投稿フォームの力でそれができるのかもしれない――と思ったわけです。しかも麻薬の末端価格はとてもお高いですが、カクヨムは今のところ全て無料で利用できます。
今回私がカクヨムのアカウントを取ったそもそものきっかけも、そこまで自信満々に拵えた投稿フォームならこの目で確かめて品評してやろうじゃねえか、という魂胆があったのでした。
というわけで、初めて登録した流れをスクリーンショット付きでご紹介。
まずはカクヨムのトップページから「新規ユーザー登録」画面にアクセスして、必要事項を入力。「メールアドレス」「ユーザーID」「パスワード」を入力します。ユーザーIDは、後では変えられないので注意。
ちなみに登録必須なのはこの3つだけで、登録後に個人情報を必ず入力しろ、とか言われることはありません。ペンネームは後で設定できます。後述。
ちなみに私はユーザーIDを「ezaki」にしましたが、取得できました。今なら自分の名字とかだけでも取れるかもしれません。
「ユーザー登録」ボタンをクリックすると、
こういう画面が出てきます。入力したメールアドレスにメールが届いているはずなので、確認しましょう。
URLにアクセスすると、登録完了ページが出てきます。
登録終わり。素直に「カクヨムをはじめる」ボタンをクリック。
自分の「マイページ」が表示されます。
ここに自分の執筆した作品の一覧や、お知らせなどが表示されるようです。
何かデカい矢印が点滅して『ここを押せ!』とあからさまに誘導してきたので、まあ素直に押してみましょう。
すると、新しい小説の情報を入力する画面が出てきます。
まずはタイトルとジャンルを決めろっていうことなんですね。
「種類・ジャンル」のところは、「オリジナル小説」の場合は10個のジャンルから1つ選ぶ形式になっています。
「二次創作小説」を選んだ場合は、二次創作が可能な作品名のドロップダウンリストが出てきて、選択できます。興味深いのは、ライトノベルをフォローしていない人でもおそらく耳にしたことがある「涼宮ハルヒの憂鬱」がある点。作品一覧に「涼宮ハルヒの○○」というフォーマットのタイトルがずらーっと並んだりするのでしょうか。
で、その他必要事項を記入したら、一番下の「新しいエピソードを書く」をクリック。
今はまだ書かないなら、右上の「保存」をクリックしてもOK。自動でマイページに戻って、作った小説が表示されます。
ちなみに下図は2つ小説を作ってみた例。
小説の中に1つ以上エピソードを作っていなかったり、エピソードが全て「下書き」のままの状態では小説は「未公開」になっていて、小説の中のエピソードが1つ以上「公開済」になっていると、自動で「連載中」になるっぽいです。
ということは、複数のエピソードが「公開済」になっている小説を未公開にする場合(ケースとしては、100エピソードくらい連載していた作品が出版されることになったので小説まるごと未公開にする、とか)は、現状ではエピソードを全部「下書き」に戻す、という方法しかないのかもしれません。
エピソードを書くボタンをクリックすると、「誰でも思いのまま、ストレスを感じないで書き続けることができる」という投稿フォームが表示されます。さあ刮目して見るがよい。
特に難しいところはなく、見たまんまという感じのインターフェースですね。
タイトルを入力、本文を入力、時々「下書き保存」ボタンで保存して、完成したら「公開」ボタンで公開、という感じでしょう。
フォントは大きめの游明朝(Windows8.1以上の場合)。Windows7ではHGS明朝かメイリオ、Macではヒラギノ明朝で表示されるようです。
左側のバーは最初は隠れていて、左上のボタンを押せば出てきます。
「クリックで挿入」というのは、カクヨム記法のフォーマットを埋め込めるというもので、例えばルビを設定したい部分を選択して「ルビ」の部分をクリックすると、適切なフォーマットがペーストされるという代物です。もっとも、フォーマットは《》で囲むだけの単純なものなので、慣れたらキーボードで入力してもかまわないレベルです。
「下書き共有」というのは、「下書き」として保存した状態のエピソードでも他の人に見せられるURLを取得できる機能です。「公開前に知り合いだけに公開して反応を見る」とか、「個人サイト訪問者にだけゆるく限定公開する」とかの用途に使えるものなんだと思います。サンプルはこちら(実際にURLを取得してみたもの。本編を公開したら消しますのでご了承ください)。ログイン不要。
さて、ひとしきり書いたら、プレビューモードに切り替えて実際の表示を確認します。下のバーの「プレビュー」をクリック。
「プレビュー」では、「カクヨム記法」で記述したルビと傍点(圏点)もちゃんと表示されてます。
ちなみに「傍点は黒丸じゃなくてゴマみたいな形なのがいい!」という向きもあるかと思うのですが、WikiPediaよると「横書きは丸、縦書きはゴマ」なんだそうです。じゃあ仕方ないッスね。まあたまには丸でもいいじゃないですか。かわいいし。
ぶっちゃけると、「ストレスなく書ける」というのはちょっと誇大広告のような気がします。他のサービスの投稿フォームと比較すると「游明朝なのでWindows8.1以降で明朝が好きな人ならOK」「フォントが大きめなので読みやすく書きやすい」「行間もきちんと考慮して設定してあるっぽい」「縦幅が最大限にとってある」という部分がアドバンテージなのかな、という印象を受けますが、正直それだけならフリーのテキストエディターでも同じ事がオフラインでもできるわけで、今のところ優位性は低いと言わざるを得ません。
あと今のところは、これといって特別な機能が用意されているわけではないんですよね……。なので「是が非でもこの投稿フォームで書きたい!」という気分にはならない、というのが個人的な感想です。例えばリアルタイムでの文字数表示があるだけでも、便利だしフォームで直接執筆するか、となるような気もするのですが。
まあまだ公開されて一週間ですからね。公式ブログによると要望は色々挙がっているらしいので、これから進化していくでしょう。
画面右上の自分のユーザーIDの書いてあるプルダウンから、「アカウント設定」ページに移動できます。
Twitterでも書いたのですが、非公開プロフィール(性別と生年月日を設定)の部分に書かれている文言が完全にワナビホイホイですね。
一般には公開されません。
各編集レーベル担当者が作家スカウト等の必要に応じて閲覧する場合があります。
こ、これは……スカウトされたければ設定しろということか……ということでは120%ないと思いますが、まあ性別と生年月日を運営と編集者に知られたところで問題はねーよ、という人は設定しておいて損はないでしょう。編集者だって人の子です。あらこの子同い年! しかも女! あたしこの子といい酒飲めるんじゃね? 話が通じやすいんじゃね? お色気シーンの打ち合わせも気ィ使わなくてよさそうじゃね? よしメールで凸じゃ、と思う事だってあるさ。
というわけで、カクヨムのレポートでした。
肝心の投稿フォームに関してはあまりいい意見を書いておらず、私も登録して試してみようか、とテンション上げていた人には申し訳ない感じですが、人によって(または環境によって)受ける感じは違うかもしれません。なんたって無料ですし、一度試してみる価値はあるんじゃないかなと思います。
前述の森高によると、ストレスは地球をだめにするだけでなく女もだめにしてしまうそうなので、特に女性のワナビの皆様は早めに登録するといいのではないでしょうか。
ユーザーIDは早い者勝ちなので、とりあえず短いユーザーIDでアカウント取っとくだけ取っとこう、というのもモダンな発想でいいかもしれません。
2015年の投稿は以上です。
今年の5月頃に公開した本サイトも、約半年が経ちました。
今までいくつかサイトを運営してきたのですが、いずれも特定のコミュニティに属していたため、同じコミュニティの人からのアクセスがたくさんありました。
今回は(小説を書く、というカテゴリーには属していますが)特定のコミュニティには深く属しておらず、ほとんど検索流入だけに頼っているわけですが、それでも前サイトと同じかそれ以上のアクセスを頂いています。
特に一太郎の記事とMeryの記事には、アクセスが見込めるだろうと狙って書いた電撃大賞の応募者が少なくなった云々の記事の倍くらいのアクセスがあり、やっぱり予想外なことってあるんだなぁ、とひしひし感じているところです。
他にも今年中に考えたことはいろいろあるのですが、その話は来年の5月頃、1周年のタイミングにでもとっておこうと思います。
ブログ運営とは関係ないところでは、2015年は、まあまあ普通の年でした。
面白かったことといえば、タクシーに軽く轢かれたことでしょうか。夜、大きい道を自転車で走ってたら小さい道から出てこようとしてるタクシーがいたので止まって待ってたんですが、明らかに大きい道に出られる状況なのにいつまで待っても動こうとしないので、あぁ私が横切るのを待ってくれてるんだな、ありがとう、と思って横切ったらメリメリと突っ込んできたのでおい待てやと思いました。
幸運にも肩から掛けていたカバンが車側だったので、クッションになってくれて死なずにすみました。もしカバンを逆の肩に掛けてたら、自転車も私もけっこう派手に飛んでたかもしれません。
ああ、どうせ死ぬなら、ライトノベル作家になって365日書き続けて過労死したいのに。あるいは作家の職業病である重い腱鞘炎を患って手首をメカに挿げ替えざるを得なくなるぐらい働きたいのにウィーン(手首を360°回しながら)。
そういう訳で、皆様の2016年がよい年になることを祈っております。
よいお年をお迎えください。
このユーザースタイルシートを設定してからF11を押すとシンプルかつ大胆な編集フォームになります 邪魔なものなんにもねえ https://t.co/E1hIhXZxmZ #カクヨム pic.twitter.com/4iJ5QlvGYa
— Aratame Yuki(改行) (@aratameyuki) 2016, 1月 9